STM32の品薄の影響が広がって、5月になって日本でも困っている方が増えているようです。

今回は STM32の在庫枯渇、値上がりについて の投稿に続いて、STM32の生産体制について確認していきます。



STMicroのProduct Change Notification(PCN)には、ウェハー製造工程、テスト工程、組み立て工程の工場に触れているものがありますので、一例としてPCN10994を参照してみたいと思います。

PCN10994自体はSTM32F103VBT6とかSTM32F415VGT6などのLQFP100製品の後工程をST Muar Malaysia、Amkor ATP Philippines、ASE Kaohsiung Taiwanの3社体制からST Muar Malaysiaに一本化しますよという通知になります。

(2019年秋の資料ですので、その時点の情報となります。)





上図が非常によくまとまっていますので、個別に見ていきます。


ウェハー製造工程






ウェハーは台湾TSMCのFab3、8、14、フランスのルッセ工場、クロル工場で分散的に生産されています。

F4ならどこ、L4ならどこみたいなザックリとしたものではないのが分かると思います。昔からの石がクロルで新しいのがTSMC…(あるいはその逆)みたいな形と思っていましたがそうではないようですね。


マイコンはフラッシュを内蔵することから90nmプロセスでも微細な方であるとされています。TSMCに発注するにしてもnVidiaやアップルのような先端プロセスラインの争奪とは無縁でしょう。




ウェハーテスト工程





 

 

 

 

シンガポールと台湾の2か所でテストされています。どれほどの歩留まりなのでしょう?



組み立て工程










マレーシアに一本化されています。STM32のマーキングでよく見る「MYS」の表記はこの工場で組み立てられたことを示すものでしょう。


前工程が本国(とTSMC)で後工程が東南アジアという生産体制は、半導体では一般的なものです。日本の電機メーカーも同様の工程になっているケースが見受けられます。


このようにグローバルになった生産体制で、COVID-19の影響を受けながら生産を継続するのは非常に大変だと思いますが、早くバックオーダーを解消して欲しいですね。


余談 フランスでのストライキについて

2020年11月から始まったSTMicroのストライキは、5週の紛争を経て「一旦」終結しています。

一旦、というのは、組合(CGT)が下記のような見解であるためです。

2020年の一般的な給与引き上げの要求に終止符を打たないことを留保した上で、議定書に署名しています。

       ( 中略 )

最後に、CGT、CFDT、CADの各労働組合は、従業員の賃上げへの期待と運動の継続を考慮して、2021年の第1四半期に予定されている義務的な年次交渉で自分たちの意見を述べるために、すぐに再会することを提案します。

 

(リファレンス: Conflit Social STM Crolles – Résultats de la consultation des salarié-e-s  @CGT)


2021年Q1に再び動きがありそうですが、これ以上、悪材料にならないことを祈ります。

フランスのストライキというと業界あるあるで、私も10年くらい前につらい経験をしました。

(STMicroでない)とある仏企業の部品が故障し、悪いことに客先のクリーンルームを汚損して事態の収拾を命じられた私は、問題の部品を回収して分析と見解を求めました。

しかし、散々待った後に返ってきた回答は「年金ストライキの影響で回答は遅れます」というものでした。

まだ20代でうまく切り抜ける術もない未熟なサラリーマンだった私は、客先とこのメーカーの板挟みになって生きた心地がしませんでした。

 滞在先のアパホテルの例の折り鶴を見て涙し、エレベーターに乗ると突然液晶で再生されるアパ社長の「私が社長です!!!!!」の声に元気をもらうという謎の情緒だったことを思い出します。

クリーンスーツに染み渡る私の冷や汗……テンパって切符買った緑の窓口に忘れそうになった荷物……嫌な思い出です。

そもそも年金ストライキって何!?みたいな感じでしたね。なぜ政府への抗議で仕事休むの!?という印象でした。

 確か60歳→62歳に支給年齢を引き上げるという内容だったかと思います。

以上です。